家具と雑貨のお店BULLPEN(以下:ブルペン)の松島大介さんが、「自分らしい住まい方」「自分らしい生き方」を営む人々を訪ねていく、連載インタビュー。
第3回は、代々木八幡にあるイタリアンレストラン『LIFE』、そして参宮橋の『LIFE son』のオーナーシェフ・相場正一郎さんを訪ねました。
相場さんは、ご自宅は東京にありながらも、那須高原に「山の家」を持ち、週末や休暇にはそこで家族との時間を過ごすという、誰もが憧れる二拠点生活を送っています。
憧れを憧れのままじゃなくて、現実にする。じゃあどうやって実現させるか?
後編では、仕事だけでなく、同じくらい、もしくはそれ以上に家族のことを大切にする考えを持つ相場さんに、自分が求める、自分らしい生き方を実践するために大切なことを教えていただきました。
松島 ― 二拠点生活のお話しは、色んな記事とか読ませていただきましたし、今までお店も色々プロデュースされてきたと思いますが、これから、お店や家のことで、次にやってみたいことってありますか?
相場 ― 地方でお店を出したいというのはあるね。今回の件でわかったのは、コロナの影響で東京は一旦ストップしてても、地方では生きてたりするから、広範囲で店舗を持っていれば、何かあっても、こっちがダメでもこっちなら、ということができるからね。東京にお店はもう出さず、直営店をやるなら地方のほうが良いかなと思っているね。
松島 ― 僕たちも、2号店を出すなら地方が良いかなと思ってます。東京では全然考えてなくて。二拠点生活もしたいです。
相場 ― あとは、何事も始めるときには、繋がりは大事だよね。
松島 ― 相場さんを見ていると、すごく良いなーと思いますね。誰しも、仕事も私生活も大事にして、相場さんのような生活をしたいなと思ったりする。でもみんな、なんだかんだで、難しいなと感じている面があると思います。
仕事は仕事で大事だけど、生活とか家族も同じくらいかそれ以上に大切にされていると、インタビューでも相場さんお話しされてますよね。
相場 ― 人と違ったことをやろうとしている意識はないけど…(笑)
松島 ― いやでも、なかなか実現できない人が多いじゃないですか。だから、実現するために大切なことってなんでしょうか。
相場 ― 両立といっても、自営業だから、家族ともども巻き込み型、公私混同でやっているからね、両立させてる意識はないよ。
でも、家族関係を守るために、好き勝手にはできないからね。第一優先事項は、家族の同意を得ること。
まずは、聞く。家族に相談して、意見言ってもらう。
相場 ― だから、この那須の家も、僕が勝手に買ったわけじゃなく、まず家族に見せて、自分の考えを伝えつつ、意見を言ってもらってOKをもらったから、買ったんだよね。そして、買った中でのルールをちゃんとつくって、それに従う。それは絶対だよね。奥さんとは、常にそういう話はする。
例えば、山に来たら奥さんは基本家事をしないというのがルール。でも普段、東京では奥さんがやってるから、奥さんのやり方があるから、家事も好き勝手にはできない。他にも、お互い運転できちゃうと、どっちが運転するかで揉めるんだよね。
でもルールで決めてしまえば、揉めない。
だから、根本的な原因を突き止めて、その原因を無くす。
松島 ― 本当にたくさん話すんですね、奥さんと。
相場 ― 毎回思うけど、人間は全員が全員、言いたいことを言えているわけではないし、言うタイミングがあるわけでもない。でも、言わないで溜めてたら、爆発する。
今思うと、東京だと、日々のルーティーンで忙しくて、しっかり話す機会って意外とないんだよね。でも山の家に来ると、そのルーティーンが一度ストップするから、前より話す時間を持てたかなと思う。それが、ここを作ってよかったなと思うことだね。
なかなか、東京の生活をしていて、夜ふたりで飲むってこともない。東京にいれば僕は夜まで仕事で帰ってくるのが遅いからね。でもここにいれば、日が暮れてくる時間から飲み始めて、気持ちいいからなんとなく、いつもより話して。
松島 ― 確かに、東京だと結局忙しなく生活してしまうから、すごく良いですね。
相場 ― 開放的だとか、別荘を持てたこととかよりも、色々なことを吐ける時間が増えたことが、結果として一番よかったことかもしれない。
東京だけだと溜め込んでしまうからね。特に女の人は。それは普通の夫婦と一緒で、めちゃくちゃ気遣うし、怒られる。
山の家に来て一番よかったことは、それかもしれない。
仕事がうまくいっても、家族関係がうまくいかなかったら、なんのために働いてるんだろうってなるし。逆に家族うまくいってても、仕事うまくいかなかったら、楽しいこともできなくて、旅行もできないし。全てが上手く行くというのは難しいよね。
松島 ― 本当に良いお話しですね。ここを作ったことで、家族みんなが、いい方向に、ハッピーになれるという。
相場 ― 東京にいる場合は、お店も含め家にも仕事の人が来たりするし、全てが近いから、きっと奥さんは疲れるんだろうね。
そういう意味では、ここは一旦線を引いて、やみくもに誰もが来る、という場所ではない。もちろん親戚家族は来るけど、基本的には家族でいるときは人を呼ばないようにしているよ。
松島 ― ちゃんとお話し伺ったことなかったなと思っていたので、今回いろいろ聞けて良かったです。
相場 ― はたからみたら、パドラーズコーヒーは二拠点とか余裕でやるくらい自由に見えるけどね。
松島 ― 今はまだ土台を作りきれてないのと、まだ加藤と松島がいて、パドラーズコーヒー という感じもあるのかなと思います。僕はある程度、離れていることに慣れてきていますし、これからは僕らふたりが離れても、みんながパドラーズコーヒーを保ってくれると思っています。
相場 ― 現場から離れられないタイプなのかな。
松島 ― 広げていくために、これからはある程度任せることも、やっていこうと思っています。
相場 ― 順番が逆なんだよね。もう、先にある程度離れてしまって、任せなきゃいけない状況を作らないと、任せないよ。
昔、ある人から教わったんだよね。サッカーが好きだから、サッカーを見に行く時間がほしいからお店を二軒作った、って。そうすると、いない口実、いなくても良い口実ができる。お店が増えてくると、いなくてもいい感じがでてくる。
一軒だと、見られている感じがするけど、二軒以上あれば、それが薄れてくる。スタッフは、お店が回っていればどうでもいいって思えてくる。そうやって自分の時間を作る。
松島 ― 僕らがいつも悩むのが、今一店舗だから、そこに愛情を注いでいて、でももう一店舗できたらその愛情が分散してしまうのではないかと思ってしまう。その感覚は、LIFEとLIFE sonを作るときに、なかったでしょうか。
相場 ― でも僕の場合は、信頼できる、確実にやりたいと言ってくれる人がいたから、任せようって思ったし、そのやり方に共感したからね。
俺は東京の暮らしに対しても、同じことを思っているんだよね。どこか地方に行きたいと思っているけど、口実と行く場所がなければ、いかない。だから、作ってしまえば、行かざるをえない。そうすれば、後ろ髪惹かれるような思いは、無くなるよね。仕事なら、そっちに行ってもしょうがないね、となる。
松島 ― 現場が好きというのはあると思うんですけど、どっかで任せていかないといけないですよね。自分がいなきゃ成り立たないという考えから抜け出さないと。
相場 ― 存在価値をどこで感じているか、なんだよね。
職人気質な人と、オーナー気質な人がいて、それぞれそこにしがみつこうとするよね。この仕事しかできないから、それしかやらないのか、他の仕事もできた上で、あえてその仕事をするのか、というのは違うよね。自分で店をやるときには、両方できないといけないから、もうちょっと視野を広げていこう、という話は、LIFEでは良くするよ。
職人として、どれだけ美味しい料理を作っても、パートナーがいなかったらお店は繁盛しないからね。その美味しさを伝える人と、そのプロモーションをうまくやっていく人がいないと、お店は回らない。現場で一生懸命つくっているモノの価値自体がどれだけ大きいか、ということだけじゃなくて、その美味しいと思っている料理をどう広めていくかということも、乗っかってくる話。そこは割り切って、徹底的にやっていったほうが良いと思う。
相場 ― 現場に立ってると、仕事を増やそうとしない。例えば、売上を倍にしようとしたとき、経営目線では、材料費やらメニューやら人件費やら、あらゆることを考えて、オーダーを増やしたりして、実現しようとするけど、現場の人は既存のメニューやオペレーションでやろうとするし、むしろオーダーを減らそうとしたりする。でも、それじゃあ絶対倍にはならない。そういう考え方はしたくないと思っているから、いわゆる料理人の考えとは少し違うのかな。
サービス業としては、一人でも多くの人を喜ばせるのが仕事だから、全部こなせるための仕組みをつくるのが、僕の仕事だと思っている。
松島 ― 考え方が柔軟なんですね。
相場 ― もともと、実家がお総菜屋さんだったというのも、大きいと思うね。数打って、稼がなきゃいけない職種だから、一個のモノをこだわって高い価格で売るという商売とは、違うんだよね。高い技術・スキルを持っているのは、もちろん良いことだけど、それをフルで高価に提供する、というのは、少し違う気がしていて、少し変換させて、より多くの人に喜んでもらえるほうが楽しいから、そうしているね。
松島 ― もう7年もやってきているので、現状維持を続けてもダメだなと思って、この前ちょうど話し合いましたね。
相場 ― 多少切り離していくといいんじゃない。うちの場合は、料理長になったら、勝手にイベントやっていい、とか、料理教室やっていい、とか、バリューアップの条件として決めてるよ。一定の給料で、人の手が増えて、人脈も増えてきて、それで自分で小遣い稼ぎをしたくなったら、やっていいよ、ということにしている。
松島 ― それいいですね。
相場 ― 自分で持ってきた話とかは、勝手に場所使ってやってもらってるね。材料費とかだけちゃんと払ってもらって。自分の空いてる時間で稼いでもらう。
松島 ― 今、パドラーズは夜あいてるので、ワークショップとかバーをやってもらうのはいいかもしれない。
相場 ― それいいね。実際に経営者目線での経験が得られるから、良いよね。これだけやってこれしか残らないんだ、と思うのか、逆にこうしたら結構得られるなと思うのか。そのノウハウが仕事にもいい影響出てきたらいいし。
松島 ― そうやって自分たちの場所をうまく使って、メンバーに活躍してもらいながら、仕事への相乗効果を得るのはとても良い仕組みですね。今回は本当にいい話ができました。ありがとうございました。
自分の理想を考えて、まず実現し、現実を理想にすり合わせていく
という相場さんの行動指針。
そして、その現実をすり合わせていく過程で考えるべき大事なこと。
家族のことを大切にするために考えること、
家族との時間を作るために、仕事で考えること、
オーナーシェフとして、お店をより良くするために考えること、
それぞれ別のことを考えているようで、実はすべてが、繋がっている。
自分の理想も、仕事も、家族も全部含めて、一人の生き方・住まい方・暮らし方であるからこそ、
全体を見渡し、それぞれがより良い形で実現できるための根本と向き合いつつ、直感を信じてとにかく実践する。
豊かに暮らすために大切なことを、学ぶことができました。
相場 正一郎 / Shoichiro Aiba
イタリアで修行後、原宿のレストランで店長を経て独立。 2003 年に代々木八幡に自身のレストラン「LIFE」をオープンし、現在では全国に4 店舗のレストランを運営。フリーペーパーの発行やワークショップ、プロダクト制作、コンサルティングなど幅広く活動。著書に『世界でいちばん居心地のいい店のつくり方』(筑摩書房)、『LIFE のかんたんイタリアン』(マイナビ)がある。
Interview : Daisuke Matsushima
Edit : Chisato Sasada
Photo : Junpei Ishikawa
tefuは、ヴィンテージ家具のシェアリング事業や空間運営事業を通じて、「さまざまな価値を分かち合いながら、自分らしく住まえること」のサポートを行う新プロジェクトです。
本連載は、tefuのアドバイザーであり、家具と雑貨のお店BULLPENの共同代表である、松島大介さんがインタビュアーとなり、「自分らしい住まい方」「自分らしい生き方」を実践する人々を訪ねていく、BULLPEN×tefuのコラボレーション企画です。
「良いものを長く使い続けること、その価値を分かち合うこと」について考え、これからの豊かな暮らしのヒントをお届けします。