INTERVIEWS
September 18, 2020

【Home Again】vol.1 :Wend Furniture 櫻井智和さん「ディテールが生む機能美と人間味のある家具作り」後編


家具と雑貨のお店BULLPEN(以下:ブルペン)の松島大介さんが、こだわりのものづくりをされている作家さんや、自分らしく心地よい暮らしを営む人々を訪ねていく、連載インタビュー。
 
第一回は、神奈川県の二宮にアトリエを構える家具職人、Wend Furnitureの櫻井さんにお話しを伺っています。
前編では、櫻井さんの家具職人に至る経緯や、美しさへのこだわりから、櫻井さんらしいデザインについてお伺いしました。




tefuプロジェクトの第一弾として、代々木上原に誕生したタイムシェアレジデンス「tefu yoyogi uehara」にも、櫻井さんの作品を置かせていただいています。
後編では、具体的な作品のお話しを通して、櫻井さんの家具職人としての、美の追求と、誰にでも合うような機能的な形の両立を目指すこだわりをお伺いし、長く愛されるプロダクトがどのように生まれるのかを探ります。


 

tefu yoyogi uehara のダイニングチェアとテーブルは、櫻井さんの作品(photo by Shinsui Ohara)



tefu yoyogi ueharaに置かれている櫻井さんの作品の中で、松島さんにもtefuスタッフにも、大きな衝撃を与えたのが、背もたれの可動するダイニングチェアでした。

松島 - tefu yoyogi ueharaに入れたダイニングチェアのデザインが生まれた経緯を教えていただけますか。

櫻井 - SCという名前のダイニングチェアで、背もたれが可動するんですけど、そのデザインの理由は、誰の背中にも合う、どの体勢にでも合うように作りたかったからなんです。
人の椅子に座る位置っていうのは、それぞれバラバラで、笠木(背もたれの上端の横枠)の角度が一定だと、座り方・当たり方によっては痛いんです。それが嫌で、可動式にしました。
というのも、以前お客さんにアームチェア(櫻井さんの初期作品)に座ってもらったときに、背中の当たりが痛いと言われたことがあって・・・すごく悔しかった。

 

 

 (下写真)櫻井さんの初期作品であるアームチェア



櫻井 - もちろんその椅子も、合う人には合うんですけど、みんなに合うものをつくりたい。
実現するにはどうしたらいいかなと考えたときに、可動式にしようと思いました。
しかも、デスクチェアでは背もたれ可動のものが結構あるのに、そういうダイニングチェアってみたことないなと。そこから構想して、つくりました。

松島 - 元ネタは、鉄の椅子だったんですよね?

櫻井 - そうなんですよ。フランスの100年前の工業製品の、アンティークの椅子なんですけど。これは元々作業用の椅子ですが、背もたれが同じ様に可動式で、この機構をダイニングチェアに取り入れたら面白いんじゃないかなと思い、金具の制作を鉄屋さんにお願いして、作りました。





松島 - ブルペンでもSCを置かせていただいているんですが、お客さんみんなやっぱり驚きますね。見た目以上に、座ってもらうと、その違いに驚きます。椅子にそんな違いが生まれるとは、みんな思っていないんですよ。そういう意味で、画期的なアイデアだと思います。

櫻井 - ダイニングチェアで、背もたれが動くものが本当にないんですよ。なんでないんだろうって思うぐらいに、座り心地がよくなるなと感じる部分ですね。
座面の部分の種類には色々あるけれど、数少ない、背中の当たる高さをこだわって作った椅子です。ちょっと「おっ」て、なってもらえるのが嬉しいですね。


 完全オリジナルの金具をつくり、笠木の曲がり具合や高さなどを、何度も試行錯誤したそうです



櫻井 - リラックスしたいときって、椅子の前側に座るじゃないですか。そのとき背中が斜めになるのに背もたれがついてきてくれるんで、すごく楽なんです。
一方で、食事するときは背中をピンと垂直にさせて座る。それにもついてきて、面で支えてくれるので、お尻も楽になるんです。すごく理にかなった動きをしてくれる椅子です。


 



松島 - 座面の方は、昔からの職人さんにお願いされているそうですが、ある意味、伝統を絶やさないように、あえて自分でやらないという、プロに任せるというスタイルもいいなと思っていて。他のものづくりをやっている人への敬意っていうのがあるのでしょうか。

櫻井 - もちろんありますね。自分の持ってない技術を、ずっとやってきた方の仕事を絶やしたくない。その人がやれるならずっとやってほしい。
ちゃんとやってきてる人ってかっこいいので、お願いしたくなるんですよ。他の人じゃだめで、「あなたにやってもらいたい」という、尊敬の気持ちですよね。その人に編んでもらったら、自分で作るよりも、その椅子もより良くなるし。
 



松島 - 最初に言ってた気持ちのことですか。

櫻井 - そうですね。それだけは忘れたくないなと思っています。
ただ文面と、お金だけのやり取りって、面白くない。せっかく買ってもらうなら、より良かったなと思ってもらいたいし。納品に行くときに、喜んでもらったり、会えてよかったと言ってもらえたら、やる気になりますね。




松島 - 買う側も直接どんな人が作ってるのか知りたいと思うんですよ。作り手から直接買えるって、嬉しいだろうなと。僕らみたいな店経由だったとしても、その人の詳細な情報が伝われば、ワンクリックで買えるネットショップの感覚とは別物だと思います。
大量生産されているものと、高い安いというよりは値段の価値がしっかりあるもの、その両極端がある時代になっていきそうですよね。

櫻井 - 高いお金出してでも、手に入れたいと思えるようなものを、作っていかないといけない。買ってくれる人に、ちゃんといいものを提供していきたいですね。
そして、それを伝えてくれるありがたさですよ。僕の代わりに、ブルペンで多くのお客さんに伝えてくださっているわけじゃないですか。




松島 - 作る人がいて、編む人がいて、伝える人がいて、、、役割分担を気持ちよくできたらいいですよね。
自分の作るものを一番だと、もちろん思って作ってても、実際に「うちの方が一番いいですよ」って自分からストレートに言える職人さんって、なかなか少ないと思うし、この値段が決して高い値段じゃないですよって、言いづらいと思うんですよ。
でも僕らは第三者として、これでこの値段は安いですよって言うことができる。なぜならこういう人がこういう思いで作っててって言えるので。
いい意味で役割分担して、関わっていけたら良いなと思います。

 



松島 - コロナの影響で、家にいる時間が相当増えたじゃないですか。そうすると今まで外で使っていたお金を、家のものに使うようになったり、どうせ買うなら愛着の湧くものを買おう、という考えが着実に広まっている気がするんですよね。
その最たるものが家具だと思うんですけど、今後を見据えて、こういうものを作ってみたいという考えとか、今後暮らしはこういう風になっていってほしい、というのはありますか?

櫻井 - 今の時代、こだわる方や、自分の欲しい物を身の回りに集める人って増えてると思うんです。消費の時代がちょっと終わったというか。安いものを大量に消費する時代から、転換してきているんじゃないかなと思ってきてます。
そこで自分の生活を大事にするということで、家具を使ってほしいし、そこで提案できる家具ってなんだろうと考えています。
こだわるお客さんや、住空間を求めるヒトに対して、提案していきたいですね。




機械屋さんが良いものを作り過ぎて潰れてしまった、という話がある。
低品質なものを届けてメンテナンスで儲ける商売をする方が儲かるからだ。
「でもその話を聞いて、ちょっと違うやろ、って思うんですよ」
そういうものづくりはしたくないと櫻井さんは語る。
「ひとつのものを長く使ってもらって、循環していくのは、気持ち的にいいですよね」


 

人それぞれの体格や座り方に合わせるだけでなく、さまざまなシチュエーションでの使われ方を考えて設計している櫻井さん。
櫻井さんの家具と言えば、椅子、という印象が強い。
「椅子ってこんな小さいプロダクトなのに、すべてが詰まっているんですよ」

使う人ひとりひとりのことを思うからこそ、色んな場所、用途で使われる、椅子というプロダクトを通して、美学的な観点だけでなく、機能的な観点からも、長く使ってもらえるように試行錯誤を重ねているのが伝わります。

 



前編と後編の2編を通して、櫻井さんの長く愛されるプロダクトがどのようにして生まれるのかを知ることができました。
これから、家での暮らしの豊かさをより重視していく価値観へと変化する中で、どんな家具が、家での暮らしに長く心地よさや愛着をもたらしてくれるのか、今後の家具や住まいのモノ選びにも、大変参考になるお話しでした。

つくり手の皆さんが、使ってくれる人のことを深く考えて作ってくださっているように、私たちも一つ一つのモノ選びにしっかりこだわりを持って向き合うことで、お互いに良い気持ちになれると良いなと思います。

Interview : Daisuke Matsushima
Edit : Chisato Sasada
Photo : Junpei Ishikawa



tefuは、ヴィンテージ家具のシェアリング事業や空間運営事業を通じて、「さまざまな価値を分かち合いながら、自分らしく住まえること」のサポートを行う新プロジェクトです。
本連載は、tefuのアドバイザーであり、家具と雑貨のお店BULLPENの共同代表である、松島大介さんがインタビュアーとなり、「自分らしい住まい方」「自分らしい生き方」を実践する人々を訪ねていく、BULLPEN×tefuのコラボレーション企画です。
「良いものを長く使い続けること、その価値を分かち合うこと」について考え、これからの豊かな暮らしのヒントをお届けします。